2018年に出版された米国の医学書に、黄川田医師が開発した手術として紹介されています。
鼻閉に対する理想的な手術は、鼻の正常な構造を破壊せず、その機能を保ったまま、腫脹した粘膜を改善させる方法です。そのひとつとして、腫脹した粘膜に分布している副交感神経を切断する手術があります。50 年ほど前に確立した方法で、治療効果が高いことから一時は世界中で行われました。
しかし当時の手術は、鼻の外から神経にアプローチする大掛かりな手術であった上に、涙の分泌障害をきたすという副作用があり、次第に衰退していきました。
この手術を、治療効果を維持したまま、涙の分泌障害を引き起こすことなく、鼻内から行える手術として現代によみがえらせたものが、1997 年に黄川田医師が開発・報告した「内視鏡下後鼻神経切断術」です。これは、内視鏡を用いて鼻腔から0.5mm ほどの太さの副交感神経を露出させ、明視下に切断するという世界で初めて報告された画期的な方法です。
この報告後、後鼻神経切断術は日本においてもアレルギー性鼻炎に対する新しい手術治療として次第に定着してきました。しかし、副交感神経のみを切断するという方法には高度な手技が要求されるため、一般には、神経に伴走する太い動脈(蝶口蓋動脈)と一緒に切断する方法が普及しているようです。 私たちは、蝶口蓋動脈が鼻の加温機能において主要な役割を果たしていることから切断せずに温存することが重要であると考え、アレルギー性鼻炎の治療に必要な神経のみをターゲットとした手術を実施しています。
慢性鼻炎に対する手術の役割
保存的治療では改善困難な鼻閉に対しては手術が有効であり、中でも後鼻神経切断術は、優れた効果を長期間得ることが期待できる治療法です。
しかし、慢性鼻炎は本来1 回の手術では完治できない難治性の疾患です。手術を行っても、次第に症状が再発することも、また特にアレルギーがある場合には、その原因物質となる抗原(花粉、ダニなど)が鼻に侵入するたびに症状を反復することもあります。しかし手術を受けることによって、症状が再発した場合でも、点鼻薬あるいは内服薬を短期間使用するだけで症状を消失させることが可能になります。アレルギー性鼻炎の手術の意義は、まず「正常な鼻からの呼吸を取り戻すこと」、そして再発した場合でも、「保存的な治療を組み合わせることで正常に近い状態を維持すること」にあります。